8 ふりもどの発明

 昔あったけど。或所(あっど)さ、乞食(ほいど)いでな、今日はとっても、もらいの良え日さあだて、握飯(やきめし)食い切んなぇけど。乞食腹で言うども、なんぼやっきどなてみでも食い残たじょん。
 投げるなも、もったいなえし、たとえ小鳥(とりこ)に啄(つつが)ってもええ、もしかして野ねずみやリスえでも発見(みつから)ねば、もうげもんだ。ていうなでな、ほの残た握飯ば傍の大樹の股さなった凹味(へこたび)さ、はさんで隠しておいだけど。
 でもな、乞食ごとしては、あっちこっち村替えして、もらい歩ぐべ。しばらく寄りつかなえでいるうち、百舌(もず)のいげにえには、ほの事ば忘ってしまたんだ。でも何時がまだ元のどさ戻てきたべちゃ。
 涼しい木陰で一休みしてっど、何とも言えなえ良い匂いきけでくっちょんな。小鼻ぴくぴく動(えごが)して、匂て来るもどば探してみたべちゃ。
 あらっ、この大樹まだいつか自分(わあ)握飯残して行(え)た樹んなえがや。きっと、んだちゃ、これに違えないて、想い出して覗(かだが)てみだけど。
 なじなたんだがな、今日みでえな天気の催(こも)た変りそな時にや。あの握飯があれば出あるぐごどもなくて、うんと助かんども。想いばかけて探したべちゃ。
 ほしたれば樹の股の凹味さ雨水だが、樹液だがひたてしまて、握飯ぁちゃんとした形してなえけど。でも、そごら一面さ、とっても好え香りさせでっちょんな。握飯なじ化げだが知んなえども、乞食まだほの溜りさ指つっこんでちょっとばり、なめでみだどごだど。
 これぁ美味(うま)い、こでぇらんなぇぞ。これで命とられるよなごどあっても諦めつく。ていうなで、指一本の一(ひと)なめりが、葉っぱで杓て呑むよなたけべ。ほしては、あど(もう)一杯、あど一杯て、汲み重ねんなだけど。ほのうぢ、とっても良え気持なてきてな、これぁ極楽だじゅなで、味ひこんでしまたけど。
 ほの次も握飯もらうど、こんどぁわざわざ残してきて、ほごの大樹の股さはさんで置きおぎしたけど。握飯まだ酵母(ふりもど)なて、ひとりでわいで濁酒になたなだべ。んださげ、昔の人たち、握飯で酒造る術ば乞食がらきいでおべだなだど。
 どんぺからんこ なえけど。

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