10 猿蟹合戦むかしあったどな。『オット』あるところに、一匹の親蟹が出てよ、そしてモソリモソリと歩(ある)っているど、そういうところに、オニギリが落ちていて、 「いやいや、これはええ。オニギリ拾った。子蟹に食べらせるにええなぁ」 て思って拾っていたところに、猿が釣竿かつねて向いの山から、ホイホイと来たんだど。『オット』 そして、 「蟹さん、そのオニギリとこの柿の種子 ― 柿の種子持(たが)ってきて ― と取換えっこしないか」 「駄目だ、駄目だ、これは子蟹に食べらせんなねから、駄目だ」 「いや、こりゃ蟹さん、この柿の種子ていうものは植えれば、だんだん大きくなって、柿のうまい実がなるもんだから、これ、取換えね馬鹿はないもんだ。取換えろ」 ていうたど。『オット』 そして取換えて、蟹は正直なもんだから、その柿の種子をドッカドッカと鍬で掘ってよ、そして埋めて、柄杓で、「オエザラ、ハサミキル、オエザラ、ハサミキル」て言わっで、だんだん大きな木になって、そうして、大木になって、柿がいっぱいなったんだど。そして蟹は木登りさんねもんだから、 「うまそうな柿も実(な)ったげんど」 て、いたどこさ、また猿が釣竿かついで、ホイホイ、 「蟹さん、さあ大変だ。おれもいでくれんべ」 「んじゃ、頼む」 そして、ツルツル、ツルツルと登って、猿はうまそうなのを、ポイともいで、カリカリ、カリカリ。ポイともいではカリカリ、カリカリと食ったど。『オット』 おいしそうに食べて、 「おいしそうだ、おれにも一つ呉んねぇか。お前ばり食ってねぇで…」 「ほうか」 青いどこのような、渋いような、ポキッとほいで、目糞、鼻糞、トロトロってして、おまけに尻をぐいとぬぐって、「そら来た」て投(ぶ)っつけたど。『オット』 そうすっど、柿ぶっつけらっじぇ、転んだわけだ。「よし、敵討ちしてくれましょう」と思って、猿が篭さ一つ背負って降っで来るどこ、すかさずツルツル、ツルツル降りて来っどこ、まずハサミ出して、尻尾、チョキンと切ったど。 猿は、「この敵は、必ず晩げ夜討ちに来っから、憶えていろ」て、こういう風にして行がっで、蟹は、 「さぁ、大変だ、猿に敵討ちに来られるちうことは大変だ。こんなことになった、どうしたらええか」 て思っていたどこさ、臼が来たどな。ゴロンゴロン、ゴロンと来て、 「蟹、蟹、なにしてお前は泣いっだ」 「こうこうしたことで、今夜、猿が夜討ちに来るということ、猿にはおれはかなわないもんだ、どうしたらええかと思って、思案にくれて泣いっだ」 「よしよし、おれ手伝って、敵討ってくれっから、決して心配すっことない」 そうしているうちに、針が布団縫い針が、チクモク、チクモクと来て、 「蟹、蟹、何して泣いっだ」 「こうこうしたわけで、泣いっだ」 「んじゃ、おれも敵討ち、助(す)けっからな」 そうしているうちに、蜂がブンブン、ブンブンと飛んで来たど。『オット』 そのわけ聞いて、「それなら、おれも手伝う」。そうしているうちに、突っぱり棒も来た。ドシリドシリ、ドシリと、マッタン棒が来た。そのわけを聞いて、大変ふんがいして、 「それなら、おれも手伝う」 いよいよ相談する。そこに栗もくる。そうしているうちに来たのは、牛の糞もビタカタ、ビタカタて来たど。そのわけ聞いて、 「んじゃ、おれも手伝ってやる」 「どうして征伐するか」 て、相談になって、臼はまず上のお天井に隠れる。布団針は布団に隠っでる。蜂は蜂のように窓のところにいる。蛇は味噌の中にいる。栗は火所(ほど)さ入る、というような段取りでいたどさ、案の定、時刻見計らっで、猿は来る。 「蟹、蟹、いたか」 て言うど、蟹は水甕さ入って、ちゃんと隠っでいるうちに、モソモソモソと、 「こんなとこに、火も焚かねでいた。蟹。火でも焚いて…」。 て、囲炉裡かましているうちに、火ぁパサーッとはじけて、猿の顔全部火傷する。 「熱い、熱い、こんなことでは仕様ない。まずもって明るいところさ行って見なね」 て思って、窓の傍さ行くど、蜂ぁブンブン、ブンブンて来てチクッて刺す。 「いやいや、痛い痛い、こんないたいことはない。こんな時に味噌を付けっどええから、味噌でもつけましょう」 て、味噌コガさ手つかむど、そこさ蛇ぁいて、チクッと刺す。 「いや、いたい、いたい」 て、手振って、こんどは、 「こげなひどいときは、寝て一休み休むべ、蟹はどこさかぐっでいたべ、何だか出はって来ない」 て思って布団さ入っど、針にチクチクチクと刺さっで、 「いや、いたいいたい、こりゃ何ごとなんだか、こがえなどこに居られるもんでない」 と思って、飛出はって行くじど、糞、ビタカタていうのさ、つんのめって転んで行ぐ。転んで行くどこさ、マッタブリは、 「そら来た。どっこい」 て、猿を追いつめて、その臼がゴロゴロ、ドスンとぶっつぶして、敵とらっだどこだど。とーびったり釜の蓋、さんすけ。 |
(山口ふみ) |
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