26 空寺の怪 

 白川村の白川寺て言う寺あっこで。そこに、和尚は来るなも来るなも、化物に食ってしまってはぁ、空寺になっていっどこさ、むかしぁ雲水坊主ていうの歩ったごんだごで。道心坊なて言うたもんだ。そいつぁ来た。
「今夜、一晩げ泊めて呉ろ」
 て来たな、そいつ、
「泊めらんねから、ここに、白川寺ていう空寺あっから、そこでよからば、そさ泊れ」
 て言うたば、
「ええどこでないどこだ。空寺などさっぱり恐っかないことないから、泊めておくやれ」
 て言うて、そこさ泊めたことよ。そうすっど、和尚さま、檀中から米もらって行って、飯炊いて食って、そしてお経読んでいたれば、夜中頃になっど、ガヤガヤという、何か来ると思って、黙って聞いっだれば、
「梅林殿、梅林殿、家にござったか」
「おり申した。どなたでござる」
 て言うど、こんど、
「東堂の老狐でござる」
 て言うけど。
「さぁらば、おいやれ」
 て言うど、ミチミチ、ミチミチて行くど、こんどはまたじきに、
「梅林殿、梅林殿、家にござったか」
「おり申した。どなたでござる」
 て言うと、こんど、
「西竹の一鶏でござる」
「さぁらば、おいやれ」
 て言うど、それもミチミチ、ミチミチと仏壇の方さ行くのよ。また来たの、
「梅林殿、梅林殿、家にござったか」
「おり申した。どなたでござる」
 て言うど、こんど、
「南池の大魚でござる」
「さぁらば、おいやれ」
 そいつもミチミチ、ミチミチと仏檀さ行って、またまた、
「梅林殿、梅林殿、家にござったか」
「おり申した。どなたでござる」
「さぁらば、おいやれ」
 て言うど、ミチミチ、ミチミチて、仏檀に行って、こんどみんな集まって踊り始まったんだどはぁ、踊りは、
    ザンベツ サクベツ サクランダー
    サクベツソワカニ キンキンキン
    コンコンコン
 て、本気になって踊ったずも。みな集まって。そうすっど、和尚さま道心坊は、
「これはしたり、化物ざぁ、このごんだ」
 て思って、拂子(ほっす)を持って、ほに、フフンマと分けて、そうして仏檀さ行って拂子バチーッとしたらば、止まったけど。ピチッと。その踊りは…。そうすっど、 「梅林とは、梅の木でこしらえた猿であろう」
 て言うたど。そうすっど、ガタンと言うけざぁ、猿になって行ったけどなぁ。それから、
「東堂の老狐とは、東のお堂に住んでいる古狐であろう」
 て言うたど。そうしたら、コンコンと言うけぁ、狐になって行ったけどはぁ。東の方のぼっこれお堂に入ったけど。
「西竹林の一鶏とは、西の竹林に住んでいる盲鶏(めっこ)であろう」
 コケコー、ケケコーて言うけぁ、行ったど。
「南池の大魚とは南の池に住んでいる鯉であろう」
 て言うたば、ゴチャゴチャと言うけぁ、南の池の鯉ざぁ、そのごんだど。それから、
「北山が岳の白骨とは、北の山に埋まってるシャレコーべであろう」
 て言うたらば、大きな頭ゴロゴロ、ゴロゴロ。みんなそのようにして、化けたの、道心坊に解がっで、行ってしまったど。そして後何も来ないから、安態して、和尚さま、お経詠んでいたから、近所の人は、
「また道心坊は食(か)ってしまったべ」
 て言うもんで、総代衆は集まったど。そうすっど、こういうわけであったて話したれば、
「これはええ、ほんじゃ」
 て、みんなに喜ばっではぁ、そこの住職になって、一生富貴に暮し申したけど。むかしとーびったり。
(山口すえの)
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