33 鮭のよ女房 

 吉おんつぁどさ、暗くなるしまに、きれいな女ぁ、
「今夜一晩げ、泊めておくやい」
 て来たけど。そうすっど、
「おらが、一人食うもんで、何も食うものも持たないし、泊めらんね」
 て言うたげんども、
「ええから一晩げだけ泊めて呉ろ」
 て言うもんで、
「ほだらええから泊れ」
 て、泊めたど。そしたらええ女ぁ、
「朝げに、おれぁ御飯炊きすっから…」
 て、次の朝げに飯(まま)炊きすっど、大そううまいハラコ汁して呉っだど。そんでそうしているうちにはぁ、一晩げばりでなどなくなってはぁ、三つも四つも泊ったどはぁ。そしてこんどは、
「おれどこ、おかたにして呉ろ」
 て言うけどはぁ。
「ほんじゃ、よかんべ」
 て言うもんで、嫁にもらって、そうすっど毎日、毎日、何にも持ってもこないで、ハラコ汁ばりしてくれる。
「なんだて、これは異(い)なもんだと思って、気ぁついて、何とかして見明(あら)かしてくれんべ」
 て思って、隠っで見でっずげんど、やっぱりそういうときは、悟ってはぁ、見せねもんだけどはぁ。それからこんど、
「おれぁ用事あっけ、買物に行って来っからて、出はって、そして二階の上さあがって見っど、こんどおかた起きて、飯炊いて、お汁煮るていう時、衣裳着ったな、グラリ尻ひったぐって、擂鉢の中さ尻突っこんで、ハラコ産(な)したど。そしてはぁ、そいつハラコ汁だってはぁ、鍋さ入っで煮て食(か)せ食せさっだどこだど。そうしっどはぁ、おんつぁも二階から降(お)っで来てはぁ、そして「飯(まんま)食いやれ」て言うけぁ、
「何だか、今日は異なもの見たれば、胸わるくて食んね」
 て、飯食ながったどな。
「ほんじゃ、おれ見はらかさっじゃなだから、仕方ない」
 て言うけざぁ、ええ女ぁ、大きな雑魚になって、水舟からガホガホ、ガホガホと川さ逃げて行ったど。とーびったり。
(山口すえの)
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