53  お糸唐糸 

 お糸が、初手のおっかさの子、唐糸はちっちゃいな、なぁ。そしていびらっでいたわけだべ。
 おとうさんが参宮に行ったど。そしてそのおかあさんがお糸ば箱さ入れて、山さ埋めて来たど。姉さんが埋められっどき、ケシ粒一つかみ入れて呉っで、そして長持の角(かど)さ穴あけて、
「姉さん、おれ迎えに行くから、これを一粒ずつ、ずうっと落して行げ」
 て、そう言うたもんだから、それがはじけたとき、それを尋ねて行ったところが、山奥さ生き埋めになっていたっけど。そしてそれを掘り出して、二人で、こんどはぁ、会津さ行って暮しったど。
 おとうさんが参宮から帰って来て、泣いて目が見えなくなって、
「お糸唐糸いたならば、この目がパッチリあくべぞよ」
 て、会津まで探ねに行ったど。そして会津さ行って、川で洗濯しったどこさ行って、
「ああ、何だか、今の音は『お糸・唐糸』って言うようだから…」
 て行ったところが、おどっつぁんだって。「唐糸だよ」。そして姉さんもいた。「おれ唐糸だ」「おれお糸だ」て、目ぁ片一方ずつ、ペタリペタリなめて呉っだら、目あいて、そして帰って来たど。
(男鹿てつの)
>>中津川昔話集(上) 目次へ