くらしと倫理学
開講年次:2年次
卒業:選択
開講時期:後期 授業形態:講義 授業回数:15 回 時間数:30 時間 単位:2 単位
平 田 俊 博
■ 科目のねらい
この科目は、ディプロマポリシーにある「子どもを取り巻く地域社会の教育資源や今日的課題の理解」を達成
するために、社会の出来事に幅広く関心を持ち、理解することを目指して設置されている。(DPに対応する中項目:⑧⑨
)
■ 授業の概要
人類は今コロナ・パンデミックに襲われている。今後コロナ・ウイルスとの共存・共生を覚悟しなければならない。地球
生態系が危機にさらされ、近代的な社会構造が大変革を迫られている現在、私たちの暮らしも抜本的な改革を避けら
れない。感染症対策が喫緊の重大課題となるにつれ、社会のデジタル化がさらに加速する。デジタル行政、、デジタル
教育、デジタル労働、デジタル金融、デジタル医療、デジタル葬儀などである。こうした暮らしのデジタル変貌に対応し
て、私たちも新しい倫理観を築かなければならない。デジタル社会のデジタル倫理を、聴講者と共に考え出そう。
■ 達成目標・到達目標
① デジタルくらしとデジタル倫理について確実に理解し、デジタル教育を説明することができる。
② 自分のデジタル倫理観を確立して、自分のデジタルくらしや教育の基本方向を見定める。
③ 他者のデジタルくらしや教育観を理解して、自分との違いを把握し、インクルーシブ教育に役立てる。
■ 単位認定の要件
①~③の合計で60点以上の点数を獲得すること。
■ 単位の認定方法及び割合
期末試験:60% 授業内提出物:20% 授業内試験:10% 授業内活動:10%
■ 授業計画
- 第1回 デジタル倫理学とは何か? ―デジタル社会と同調圧力―
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コロナ・パンデミックの襲来によって、政府により外出自粛令が出された。世界中のほとんどの企業や商店
が営業を停止し、学校も休校措置をとった。再開後も大学はリモート講義などのデジタル教育を余儀なくさ
れた。ウイズ・コロナの時代のデジタル倫理学について深く考究して、デジタル教育に役立てよう。
ビデオ『コロナと感受性期』・『コロナと免疫』、NIE(新聞を教育に)「最新のくらし報道」
- 第2回 デジタル革命とデジタル倫理―紙の文化からケータイ文化へ―
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法律的な罰則を伴う法学や、世間的な賞賛ないし非難を伴う社会学と違って、現代の倫理学は、主として個
人の良心と決断に立脚することを理解する。欧米流の個人主義的な近代倫理や東洋の伝統的な家族倫理とは
異なる、新しいデジタル倫理について学ぶ。同調圧力という日本の世間文化を理解する。
ビデオ『地球温暖化』・『コロナと3密―無症状感染』、NIE「最新のくらし報道」
- 第3回 デジタルくらしと人間観―人類から個人へ―
-
デジタルくらしでは、人間が人間を産み個体発生は系統発生を反復するという思想に修正を迫られる。系統
発生的な進歩観から、個体発生的な発達観へと、価値観が転換する。一個の人間の受精卵が、出産を経て成
人に達するまで長い発達期間を要することを学び、他人に説明できるようになる。胎児期から保育期の子育ての決定的重要さを深く理解する。デジタルくらしでは、何よりも個体の成長と安全を守ることが大切となる。
ビデオ『生殖異変―劣化する精子と卵子―』、NIE「最新のくらし報道」
- 第4回 デジタル社会におけるデジタル保育
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ここ数年来スマートフォンの驚異的進化と爆発的浸透により、私たちのくらしが大きく変化した。乳幼児までもが多様な電子映像メディアに囲まれ、いつでもどこでも映像の海の中で生きるようになった。こうしたデジタル社会ではメディア機器安全操作教育が不可欠なことを理解する。
ビデオ『進行性近視と乳幼児斜視』、NIE『最新のくらし報道」
- 第5回 メディア漬けによる生命感覚・身体感覚の劣化
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電子映像メディアへの接触時間が世界トップクラスと言われる日本の子どもたちが、人類史上初めて人体実
験にさらされている。体幹筋力を始めとして、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五官の機能や、体温調節な
どの自律神経が変調をきたしている。どうすればメディアへの接触時間を短縮できるか工夫したい。
ビデオ『ゲーム障礙』、NIE『最新のくらし報道』
- 第6回 メディア漬けによる社交性の後退
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乳幼児から大学生まで、今や多くの日本の子どもたちは、自由になる時間のほとんどを室内で、体を動かさず言葉を発することもなく、孤絶して、電子映像メディアと向き合って過ごすようになっている。家族間の対話すら不十分な若者たちは、会話能力やコミュニケーション能力が発達せず、人間らしい社交性が身に付かない。
ビデオ『ひきこもりと発達障害』・『サル化する人間』、NIE『最新のくらし報道』
- 第7回 メディア漬けと脳機能の発達不全;中間試験
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メディア漬けが進むと家族との交流や言葉のやりとりが少なくなり、幼ければ幼いほど、現実の人間とのコ
ミュニケーション能力が未発達になる。そうした子どもたちは社会性が育たないので、言葉を使わずに、噛
みつく、引っ掻く、体当たり、奇声などで感情を表現し、暴力行為に走りやすいことを学ぶ。理解の程度を
確認するために、中間の授業内試験を実施する。ビデオ『若者のゲーム依存』。
- 第8回 メディア依存症とは何か? ―親子の愛着形成と愛着障害―
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授乳タイムはメールタイムと公言する母親や、ネット中毒で妻や子に向き合おうとしない父親が増大する現
状を説明する。赤ちゃんとのアイコンタクトがないネトゲ未亡人の母親の行動が、親子の愛着形成を決定的
に拒んでいる現状を学び、他人に説明できるようになる。メディア依存症と愛着形成の破綻の関係を深く理
解する。ビデオ『外出自粛でゲーム依存』、NIE『最新のくらし報道』
- 第9回 ネット依存治療―メディア漬けと大脳異変―
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乳幼児期からの長時間のメディア接触が、聴覚をはじめとする脳の神経回路形成にも影響を及ぼして、人間
としての基本的な部分にまで悪影響をもたらすことを学び、他人に説明できるようになる。長時間、電子映像メディアに接触すると、人間らしさを司る大脳の前頭前野の機能が低下し、自己制御ができなくなることを学ぶ。
ビデオ『韓国ネット依存治療』、NIE『最新のくらし報道』
- 第10回 メディア漬けと軽度発達障がい
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人類史上例がないメディア漬けの子育てにより、人体実験国ニッポンでは幼児期から劣化が進み、小学校入
学時点で特別支援教育を要する軽度発達障がい児が急増していることを学び、他人に説明できるようになる。
メディア漬けが引き起こす学力低下について深く理解する。
ビデオ『虐待入院・育児放棄』、NIE『最新のくらし報道』
- 第11回 核家族の功罪―世代間倫理とは何か?
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メディア漬けで劣化した子供たちが親になって子育てを始めた1990年代の後半から、子供の生きにくさ、育ちにくさの拡大再生産が始まったことを説明する。世代間でさらに悪化する劣化の連鎖について学び、他人に説明できるようになる。劣化の連鎖が社会的格差の連鎖につながり、日本社会の平安を脅かす。
ビデオ『DV家庭・未成年の性被害』、NIE『最新のくらし報道』
- 第12回 母性と父性ー家庭倫理とは何か?
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メディア漬けで育った多面的な発達不全の世代は、母性・父性本能が未発達で、感情を制御したり未来を予
見したりする脳の働きが未成熟である。そうした世代は結婚しても、頑固に自己を主張しがちで、譲り合うことことができない。子どもをもち親になると、乱暴な言葉と暴力で我が子に向き合いがちである。やがてそれが家庭内虐待と虐待死の増加につながる。大脳異変の親たちを援助する新しい家庭倫理について理解する。
ビデオ『虐待する親・子どもの虐待』、NIE『最新のくらし報道』
- 第13回 デジタル時代の学校教育―デジタル教育とは何か?
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紙の教科書からタブレット教科書への転換が、いま学校で始まろうとしている。スマホなどの個人用携帯通信危機の爆発的浸透によって、社会環境や家庭環境が、さらに学校環境までもが一変しつつある。ケータイ機器とどう付き合うかが、現代のデジタル教育の最重要課題であることを理解する。
ビデオ『虐待後を生きる・少年犯罪・虐待・愛着障害』、NIE『最新のくらし報道』
- 第14回 道徳教育といじめ防止教育
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各人のデジタル倫理観について発表し、意見を交換する。自分を制御して人間関係を築くのが苦手なメディ
ア漬けの若者たちが、どうすれば友人や恋人を作り、就職し、結婚し、子育てをし、家庭を築き上げることができるかを、道徳教育の観点から話し合おう。
ビデオ『改名ーキラキラネーム・日本のいじめ―道徳教育』、NIE『最新のくらし報道』
- 第15回 くらしと倫理について考えをまとめよう
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これまでの授業を総括して各人のデジタル教育観に基づく、くらしの倫理を語り合い、相互の理解を深める。
人間の尊厳と人権が倫理学の基盤であることをしっかり理解して、コミュニケーション能力とチームアプローチの技能について、相互に確認し合う。
- 第16回 期末試験
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基本事項を正確に理解してレポートを作成することができるか、他人にきちんと説明できるかを、確認する
。
■ 時間外学修
毎回の授業内容を把握しておくことを前提に講義を進めるので、必ずシラバスとテキスト・資料に事前に目を通して授業
に臨むこと(毎回約2時間)。配布資料で指定した箇所を事前に予習しておくこと(毎回約1時間)。毎回の講義内容を
復習し、課題のレポートを作成(4回以上提出)して、確実に理解しておくこと(合計で15時間)。
■ 課題に対するフィードバック
授業中に実施する小テストやレポートについては、後の授業回にて解説を行う。回収したレポートについては、返却時に
添削と口頭コメント、ならびに全体に対する講評を行う。模範となる優秀レポートを皆の前で、著者がプレゼンテーショ
ンし、質疑応答の司会をする。
■ 使用テキスト・教材
参考図書(資料で配布):コルボーン他『奪われし未来』増補改訂版(翔泳社)、清川輝基・内海裕美著『「メディア漬
け」で壊れる子どもたち』少年写真新聞社。関連論文のコピーや、最新の新聞記事の関連項目のコピーをそのつど配布。
■ 参考文献等
電子辞書、国語辞典のどれか1冊を用意。
■ 備考
ビデオ教材やNIE(新聞を教育に)を活用するので、授業計画に少し変更がある場合もある。
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